レスリング女子 吉田「あこがれの人」超えた3連覇
レスリング女子 吉田「あこがれの人」超えた3連覇
2012.8.11 08:16
■小さな背中
実は、小さな柔道家にあこがれていた。16年前の夏のことだ。吉田沙保里の中で「五輪」という言葉が福音のように響いたのは1996年アトランタ五輪。テレビ画面の向こうで体を躍らせ、大きな選手たちを投げ飛ばす谷亮子(当時は田村)の小さな背中は、まだ13歳だった吉田の人生に決定的な道標をくれた。
「私も夢を持てるようになった。夢を持つことで努力ができるようになった」
その大会で、旗手を務めたのが谷。16年後、あこがれの人と同じ重責を担い、夢の原風景に自身を重ねることができた。だが、その感慨を味わう気にはなれなかった。五輪3連覇の重圧、「女性旗手=勝てない」のジンクス。5月下旬には団体戦で4年4カ月ぶりの敗北も味わった。夜、目を閉じれば対戦相手の顔が浮かび、悪夢がよぎる。これほど不安と焦りに駆られた大会はなかった。
腹を固めたのは、ここ数日のことだ。「最高の舞台。やっぱり暴れないと。勝たないと意味がないんだし」。小天(てん)狗(ぐ)のようにマットを縦横に駆けた過去2度の五輪とは違う。派手な一撃狙いを捨てた。勝つことに徹し、勝つための戦術を貫き、「賢いレスリング、大人のレスリングができた」。ロンドンの舞台は金を取るためだけにあった。
■「練習したい」
焦がれ続けた国民的ヒロインを超える五輪3連覇。壮大な物語の主役を担った吉田だが、“神話”とともに数々の名言を紡いだ谷のようには、うまい言葉が浮かばない。「(競泳の)北島康介君が『何も言えねえ』って言ってたけど、あの気持ち、よく分かる」
それでも、自分の背中を子供たちには追ってほしいと思う。谷の背中にあこがれた自分が、五輪の夢をかなえたように。
吉田の体内には、次の戦いを求めて早くもアドレナリンが駆けめぐる。世界選手権の9連覇と合わせて世界大会12連覇。「霊長類最強の男」と呼ばれた男子レスリングのアレクサンドル・カレリン(ロシア)の記録に並び、外野の声は「次はカレリン超えを」と求める。「超えたいよね。(みんなも)超えてほしいよね。もう明日から練習したくなってきた」。超人というほかない。(森田景史)
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